校長日記其の五百七十八〜子の心、親知らず〜
季節柄、ランドセル会社セイバンの動画CMが「泣ける」と話題だ。ご存知の方も多いと思うが、あらすじは次の通り。(以下、ネタバレ注意。先入観なく見たい方は、以下は読まずに、まずは動画をご覧ください。)
昔のような黒か赤かではなく、多種多様な色とデザインのランドセルが、壁にたくさんかけられている。子どもたちが、嬉しそうに「好きなランドセル」を選ぶ。その様子をその子の保護者の方が見ていて、「ピンクがすきだからピンクを選ぶと想います」「汚れが目立たない方がいいのでベージュを選んでくれたら」「黒かな」と、自分の子どもが選ぶランドセルの色を予想する。すると、すべての子どもが、保護者の方の予想通りの色を選ぶのだ。それを見た親は、やっぱり...というふうにうなずく。
...と、ここで、セイバンの方からメッセージカードを渡されるのだが、そこには、「(子どもさんが)選んでもらったのは自分が使いたいランドセルではありません。保護者の方が選んでほしそうだと思うランドセルを選んでもらいました」と書かれていて、保護者の方々は皆驚く...。それぞれの子どもたちは、「ママはピンクがかわいいっていつも言う位し」「パパが(黒が)かっこいいと思うから」「キラキラしたところがママが好きだから」と話す。実に親のことを普段からよく見て、またそれに寄り添おうとしているかが伝わってくる。
カードには、続いて「次は自分の使いたいランドセルを選んでもらいます」と書かれてあり、子どもたちは、さきほどの表情よりもさらに嬉しそうに、キラキラ輝いた表情でランドセルを選ぶ。見ていると、これから選ぶというよりは、すでに決まっていたらしく、お目当てのランドセルに向かって一直線に走っていき、「これがいい!」と指をさす。その表情を見て、保護者の方々は、いかに自分が子どものことを見ていなかったのか、わかっていなかったのかに気づく。「親の心、子知らず」とは言うが、実は、親の方も知らなかったといえる。複雑ではあるが、それは新しい感動であり、子どもを愛する気持ちがさらに芽生えた瞬間だったにちがいない。
この動画に対しては、「5歳の子どもに6年間使うものを選ばせていいのか」「子供の好きなようにさせるのはどうか」という批判的な意見もあるようだが、個人的には、失敗してもいいのではないか。失敗だと感じたら、次は慎重になるのではないか、そういう経験を通して、自分なりの正解を見つけ出していくのではないかと思う。
企画、作成したセイバンのスタッフの方は、「この動画に正解はないと思っています」と話す。でも、子どもを育てること、また、教育に携わっている身としては、人間教育、人材育成に関する教示と受け取りたい。子どもが何をめざしているのか、何を求めているのか、そのために何ができるのかを一生懸命考えていくしかない。
親も子も お互い様と 向かい合う