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校長日記其の五百八十四〜本の魔力〜

 帰りのJR環状線内、私のカバンには『爆弾』が入っている。いつ爆発するのか私にもわからぬ。というのも、私の意志に関係なく、その『爆弾』はすでに、多くの人の心にがっちり固定されているからである。

 ...と、物騒な書き出しとしたが、もちろん『爆弾』は本物の爆弾ではない。「このミステリーがすごい!」と「ミステリが読みたい!」の両ランキングで1位を獲得した小説、呉勝浩著『爆弾』であり、東高校の図書館でお借りしているものである。先日、借りたばかりだが、まだページを開くことなく、梶井基次郎『檸檬』の感覚を再現して楽しんでいる。危ない奴だと思われそうだが、「フィクション」とはそういうものであり、「リアル」との線引きがあるからこそ「本」を楽しめる。

 さて、このように、私は本が好きである。読書自体も好きなので、趣味は?と聞かれたら「読書」とも答えるが、実は読まなくても本がそこにあるだけで、気持ちが落ち着く。
 相当前にも書いたが、本の選び方も人それぞれだろうが、私はというと、まずは装丁に目が行く。タイトルのフォントや帯との一体感、上下刊あれば大概は背表紙が2冊セットのデザインになっていて、そのバランスも選択肢の一つ。実際に本を開くまでにハードルがある。
 表紙を開くと、タイトルが浮かび上がるが、その文字の大きさにまた惹かれたり惹かれなかったり。大抵目次があるが、その数字が漢数字であったり、算用数字であったり、ローマ数字であったりして、また感情が動く。
 パラパラとページをめくると、これまたスーッと心に入って来るフォントとそうでないフォントがある。「 」付きのセリフばかりだとじっくりと読む気が失せて、サラッと流す
 ちょいちょいいい塩梅で挿絵(決してイラストとは呼ばない)があると、結構嬉しくて心が騒ぐ。
 そんな感じで全体の感じを得た後で、1ページ目を見る(決して「読む」ではない)。そこでようやく心が惹かれて、購買意欲が湧くというものである。お金持ちならいざ知らず、小市民の小生には、約2000円もする新刊を購入するためには、相当な吟味が必要だ
 と、一冊の本を購入するまでの私的感情含むルーチンを書いたまでだが、うちの図書館担当によると、昨日の図書館開館初日に、新入生が数名図書館を訪ね、本日のん貸出冊数は16冊という。新入生もこれから勉強でどんどん忙しくなると思うが、本を借りるのは、一種「癖のもの」。忙しくても癖なら無意識に借りてしまう。あまり本を読まない東高生が、少しでも本を手に取るきっかけを作りたい。
 今日は、奇しくも、あの村上春樹の6年ぶりの新作長編『街とその不確かな壁』(タイトルだけでも村上春樹とわかる?)の発売日。多くのハルキストが、徹夜で並んで本をゲットしたという。徹夜までして...と笑う者もいるかと思うが、笑われようがどう思われようが、本人たちは(早く読みたい!)の一心である。これぞ幸せの極致...と、その方々を横目に、カバンに『爆弾』を忍び込ませつつ、積ん読の一部を削り取っている小生である。本の楽しみ方はいろいろだ。
  きっかけは 表紙の隅の 売り言葉
 桜も良いが、本も良い。とりあえず、図書館に寄って帰ろう、東高生

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