校長日記其の七百九十三(了)〜いつもの一日、特別な時間〜
出勤時、朝5時半は大雨。自宅最寄り駅からいつもの電車に乗ろうと駅のホームについたが、理由のわからぬ15分の遅延。難儀やなぁと思いつつも、特に急ぐ必要もないので、イライラしている大人を横目に気長に待つ。
京橋駅に着くと、小雨だが、まだ雨が残っている。こんな時はいつも雨を避けるため、国道1号線ではなく、屋根のある京阪の高架下を西へ歩く。高架下の551蓬莱を北に折れる。多くの生徒たちが日々通っている道。二郎系ラーメン店「肉と麺と」の看板が視界に入る。開店した当時、一度だけ食べたことがあるが、それ以来はない。そのすぐ西の角に、また新しい飲食店がオープンする?3年間通っているが、この場所はおよそ半年単位で店が変わっている。変な家ならぬ、変な場所と個人的に呼んでいる。
当番の方に解錠していただいた京橋門をくぐり、職員室のセキュリティを解除して校長室へ。いつものやや埃臭さに雨の日の湿気が混じった古さ...もとい、趣きを感じる。あぁ今日は離任式か...と柄に似合わぬセンチメンタルを演じる。
さて、夕方に離任式を設けていただける予定だが、残っている仕事をどこまで片付けられるか、年度末を迎えたこの時期に時間との勝負を楽しむ。片方の脳では、どんな挨拶をしようかと考えつつも、仕事がそれを押しのける。
怒涛の仕事を開始。一心不乱に2時間ほど過ぎる。本日は、女子バレーボール部の練習試合が本校体育館で行われる。昨年縁あって、名前だけの監督を務めたため、今日は最後に必ず見に行こうと決めていた。旧知の先輩である部活動指導員の方と挨拶を交わし、部員たちの「おはようございます!」という元気な声に安心する。やはり、一人ひとり上手になっている。「◯◯、うまくなったなぁ!」と声をかけると、はにかみながら「そうですか!」と嬉しそうに答える。
横のコートでは、男子部員が元気に練習している。専門的指導のできる教員がいないため、自主的に頑張っている。素人目にも上手な部員もおり、主体的な活動でぜひ上位進出してほしい。
昼休み、学校近くで昼食を取ろうと京橋門へ向かうと、例年より明らかに開花が遅れている桜の木に小さな蕾が膨らんでいた。毎年、入学式に間に合ってくれという願いもむなしく散ってしまう桜も、今年は咲かずに待ってくれている。再来週の入学式に照準を合わせて、満開の桜で新入生を迎えてほしい。
さて、朝のラーメンの看板を見たからか、なぜか口はラーメンになっている。こう見えて(どう見えて?)ラーメンは月に1回食べるか食べないかのペース。ただ、1号線沿いにある「中華そば」屋が気になっていて、最後に食べてみようという気になった。中に入るとうちの若手が食べている。「1時から会議なんで...」と、食べ終わると急いで帰っていった。注文時、定番の『丸京中華そば』と『鶏ガラ醤油そば』のどちらにしようかと迷った末、「鶏ガラ醤油」を選んだ。待っているうちに、一人、二人とお客さんが続けて4人入ってきた。その後、「おまたせしました」と出てきたのが、定番の方。「あれ、鶏ガラを頼んだんですが」と訴える。客が連続で来たため、間違ったようだ。店主も「すみません、作り直します」と言ったが、そもそも初めての来店で、どちらが美味しいかも知らないし、今日がおそらく最初で最後なので、考えてみればどちらでも良い。時間もそうはないので、「あ、いいですよ」と、そのまま定番を食す。(美味しい...もっと早く来たら良かった)と思いつつ、満足して戻った。
その後は、またもや全力仕事モード。東高校での最後の仕事、ご退職の方、離任する方のご紹介を無事に終え、皆さん笑顔のお別れとなった。後は、16時半からの私と事務長の離任式を残すのみ。しかし、少し空いた時間に、最後の仕事を片付けようとしたその時、教頭先生が「校長室のネットワークがループしているので接続を止めた、と連絡がありました」と駆け込んできた。実は、最後の仕事というのが、整理したデータを教育庁に送ること。おまけに事務所から、ネットバンキングの決済も回ってきた。なんと理不尽な...どちらもネットが繋がらなければ片付けようがない。ICTに強い教員の助けを借りるが、そもそも校長室のケーブルのどこがどう繋がっているのか、初見で確認しようにも時間がかかる。残念ながら離任式までにネットがつながることはなかった。結果的に、感傷に浸るまもなく、挨拶も準備不足。3年間お世話になった感謝の気持ちと、新天地でも頑張りたいということだけでも伝わっていれば幸いである。しかし、今日は、朝から電車の遅延に注文間違い、ネットの切断など、よくもこれだけトラブルが重なったものだ。が、自分ではどうすることもできないことばかり。こういう時は流れに身を任せるしかない。
離任式後には、今日が最後と食堂のお母さんとお姉さんが駆けつけてくれた。おまけに、中庭で、吹奏楽部と硬式野球部が「校歌」の演奏と合唱をしてくれた。顧問から指揮棒を渡され、指揮をせよと言う。部員にこうするのだと教えられ、見様見真似で指揮棒を動かす。上手く振ることはできなかったが、寛容な生徒たちは、上手く合わせて演奏してくれる。野球部員は試合に勝っても歌わない2番(正確には4番)は少々鼻歌だったが(笑)、皆明るく歌ってくれた。先生方にもたくさん見守っていただき、幸せな時間だった。こんなゴリラのために...感謝しかない。明日は、東高校芸術祭。生徒たちの真剣で明るいパフォーマンスを見届けたい。
生徒たちよ、東高校は、少々古いが、実に恵まれた環境ぞ。望んで入学した限りは、今のこの環境を最大限活かして、自分の成長のために時間を使ってほしい。日々、頑張れ、東高生!
遅咲きの 桜の意思を 感じた日
【東高校の関係の皆様へ】
このたびの人事異動により、4月から高津高校の校長を務めることになりました。在任中は、いろいろな面でお世話になり、また、東高校を温かく見守っていただき、本当にありがとうございました。3年間はあっという間でしたが、一つ一つの出来事を振り返ると、どれも非常に濃いものばかりで、たくさんの生徒たち、先生方との思い出を得ることができました。生徒を育てているつもりが生徒に育てられるという経験は、この仕事ならではのものですが、いくつになっても嬉しいものです。新しい学校においても、自分の今できることに丁寧に取り組みながら、挑戦し続けたいと思います。3年間お世話になりました。ありがとうございました。